もふもふ不動産のもふです。僕は元キオクシア(旧東芝メモリ)の半導体研究開発者です。ソニー・キオクシアで16年、先端半導体の研究開発に携わり、キオクシアではNOR型フラッシュや抵抗変化型メモリ(ReRAM)の研究開発を経て、世界初の48層3次元フラッシュメモリ「BiCS FLASH™」の量産立ち上げに参画しました(2019年まで在籍)。発明者として特許出願も行っています。詳しくは研究開発者としての経歴ページをご覧ください。
2026年8月4日、キオクシアが「KIOXIA GP1シリーズ」——512バイトという細かいデータを毎秒1,000万回読み出せる、AI向けの「Super High IOPS SSD(スーパーIOPS SSD)」を発表し、翌日には業界最大級の展示会FMSで「Best of Show Award」を受賞しました。ただ「IOPS SSD」と言われても、何に困っていて、なぜこれが必要で、何がすごいのか——プレスリリースからは伝わらないですよね。実はこの製品、NVIDIAから「100倍速いSSDを作ってほしい」と要望され、フラッシュメモリ最大の弱点「ランダムリードの遅さ」を専用フラッシュ(XL-FLASH)で克服してきたという、元開発者の僕からすると「こんなのできるんかいな」という話なんです。この記事では、AIがなぜ爆速SSDを必要とするのかという背景から順番に、IOPS SSDの正体をわかりやすく解説します。
よくある質問
IOPS SSDとは何ですか?
IOPS(1秒間にデータの出し入れができる回数)を極端に高めたSSDのことで、キオクシアは「Super High IOPS SSD」と呼んでいます。AIの推論では細かいデータを飛び飛びに大量に読む必要があり、従来のSSD(数百万IOPS)では追いつかないため、GPUがメモリのように細かく速く読めるSSDとして開発されました。
なぜAIに爆速のSSDが必要なのですか?
AIが推論の時代に入り、覚えておくべきデータ(会話の記憶など)が爆発的に増えたためです。GPU直結のHBMは高価で容量が小さく(Rubin GPUで最大288GB)増設も難しいので、安くて大容量なNANDフラッシュのSSDで補いたい。ただしNANDはランダムリードが遅いため、その弱点を克服したSSDが必要になりました。
NVIDIAはキオクシアに何を要望したのですか?
報道(日経クロステック2025年9月)によると、データの読み出し性能を従来比100倍近くに高め、GPUがCPUを介さず直接やりとりできるSSDを2027年をめどに、という要望です。1台で1億IOPS(2台で2億IOPS)級の水準で、HBMの一部をフラッシュで置き換える狙いとされています。
キオクシアのIOPSロードマップは?
2025年に300万IOPS(4KBランダムリード・TLC・PCIe 5.0)、2026年に1,000万IOPS(512Bランダムリード・XL-FLASH第2世代・PCIe 6.0=GP1シリーズ)、2027年に1億IOPS(XL-FLASH第3世代・PCIe 7.0)と、2年で30倍超に引き上げる計画です。
XL-FLASHとは何ですか?
キオクシアが開発した速度特化のフラッシュメモリ(ストレージクラスメモリ)です。1セル1ビットのSLC方式と16プレーンの並列アーキテクチャで配線を短くし、読み出し時間3〜5マイクロ秒と通常のTLC NANDより1ケタ速い。容量あたりのコストは上がりますが、DRAMとNANDの間の速度帯を埋めます。GP1には第2世代が採用されています。
GP1とCM10の違いは何ですか?
CM10は第10世代BiCS FLASH(TLC)採用の大容量SSD(最大61.44TB)で、NVIDIA CMXに対応してAIの記憶(KVキャッシュ)を容量で受け止める「倉庫」役。GP1はXL-FLASH採用の速度特化SSDで、GPUが直接細かいデータを超高速に読む「準メモリ」役(NVIDIA Storage-Next向け)です。
1億IOPSはいつ実現しますか?
キオクシアはGP1を「将来的に最大1億IOPSを目指す設計」と説明し、報道では第3世代XL-FLASHとPCIe 7.0を採用する次世代品で2027年に狙うとされています。GP1(1,000万IOPS)のサンプル出荷は2026年末までに開始予定です。
背景①: AIは「推論」の時代へ——莫大なメモリが必要なのにHBMでは足りない
まず「何に困っているのか」から。ここ数年のAIは、モデルを作る「学習」から、ChatGPTのように実際に使われる「推論」へと主戦場が移りました。推論では、何十万文字もの長文を読ませたり、AIエージェントが何時間も作業し続けたりするので、AIが「覚えておく」べきデータ(会話の記憶=KVキャッシュや参照データ)が爆発的に増えます。
ところが、AIの計算をするGPUに直結したメモリHBMは、超高速な代わりに容量が小さく(次世代GPU「Rubin」でも最大288GB)、値段がベラボウに高い。しかもサーバーの基板はぎっしり満員・発熱も限界で、HBMを物理的に増やすのも難しい。つまり「AIの記憶をどこに置くか」問題が、AIインフラ最大のボトルネックの一つになったんです。

背景②: NANDのSSDは大容量で安いが「遅くて使い物にならなかった」
そこで期待がかかったのが、NANDフラッシュメモリを使ったSSDです。みなさんのiPhoneの写真も、僕がYouTube用に撮っている動画も、保存されているのは全部NANDです。NANDは同じ容量あたりのコストがHBMやDRAMよりはるかに安く、容量も1ケタ多く積める。AIの記憶を「安くて大容量な倉庫」で受け止められれば、HBMの容量の壁を突破できます。キオクシアが数年前からずっと狙ってきたのがここで、HBMの外側にフラッシュを「準メモリ」としてぶら下げる構想です。

ただし、大きな問題がありました。NANDは遅い。特に、AIの推論で多発する「細かいデータを飛び飛びに、大量に読む」アクセス(ランダムリード)が大の苦手で、そのままではAIの記憶置き場として使い物にならなかったんです。ここで登場する指標がIOPS(アイオプス)=「Input/Output operations Per Second」、1秒間に何回データの出し入れができるかです。SSDの速さにはもうひとつ「帯域(1秒間に何GB流せるか)」がありますが、両者は別物。太い土管で大きな荷物を流すのが帯域、細かい荷物を1秒に何個さばけるかがIOPS——AIの推論で効くのは後者で、従来のSSDは数百万IOPSが限界でした。
NVIDIAの要望——2027年に向けて「100倍速のSSD」を、GPUと直接やりとりできる形で
この問題意識を、AIサーバーの設計者であるNVIDIA自身が具体的な要望として投げてきました。日経クロステックの報道(2025年9月)によると、NVIDIAからキオクシアに、データの読み出し性能を従来比で100倍近くに高め、GPUがCPUを介さず直接やりとりできるSSDを、2027年をめどにという要望があったといいます。数字で言えば1秒間に1億回(1億IOPS)クラスの読み出し——GPU1基にSSD2台を組み合わせて計2億IOPSという構想も語られています。
狙いは、GPUのHBMの「一部」をフラッシュで置き換えること。HBMは高すぎて増やせないので、GPUから見て「メモリのように細かく・速く読める」SSDがあれば、AIの記憶の置き場を安く一気に広げられる——そういう発想です。NVIDIAはこの構想を「Storage-Next」と呼び、キオクシアはこれに応える形でロードマップを示しました。
キオクシアのロードマップ——2025年300万→2026年1,000万→2027年1億IOPS

キオクシアは2025年の技術説明会で、上の図のような3段ロケットのロードマップを示しました。
- 2025年: 300万IOPS(3 MIOPS)——4KB単位のランダムリード。普通のTLCフラッシュ(1セルに3ビットを詰める標準品)・PCIe 5.0(SSDとCPU/GPUをつなぐ通り道の規格。世代ごとに倍速)、つまり従来のSSDの延長線
- 2026年: 1,000万IOPS(10 MIOPS)——512バイト単位のランダムリード。専用フラッシュ「XL-FLASH」第2世代とPCIe 6.0で実現。これが今回のGP1です
- 2027年: 1億IOPS(100 MIOPS)——XL-FLASH第3世代とPCIe 7.0で、NVIDIAの要望水準へ

ポイントは、2年で30倍超(300万→1,000万→1億)、しかも読み出し単位を4KBから512Bへ細かくしながらという異常なペースと、それを「フラッシュメモリ本体(XL-FLASH)の世代交代」と「インターフェース(PCIe)の世代交代」を同時に進めて実現しようとしていること。なぜ普通のNANDではダメで、XL-FLASHという専用品が必要なのか——次でその技術的な困難と解決策を説明します。
技術的困難と解決策——普通のNANDではダメなのでXL-FLASHを専用開発
なぜNANDはランダムリードが苦手なのか
NANDフラッシュの中では、データを蓄えるセル(バケツのようなもの)が「NANDストリング」として数珠つなぎに直列接続されています。動画や写真のようなファイルは中身が連続したデータなので、上からザーッと順番に読んでいくぶんには速い。ところが「40階の部屋、次は20階、次は30階」のようにバラバラの場所を1件ずつ読むのは大の苦手なんです。一方、DRAMは碁盤の目のような構造で任意の場所へ一発アクセスできる。ここが「DRAMは速い、NANDは遅い」と言われる本質的な理由のひとつです。
さらに普通のNANDは、容量とコストを最優先に設計されています。最新の大容量品では、1つのセル(バケツ)に水の量を16段階で管理して4ビットを詰め込みます(QLC方式)。水をちょろちょろ注いでは測り、また注いでは測り……と繊細な制御をするぶん、読み書きは遅くなる。「大容量・低コスト」と「速さ」はトレードオフなんです。
解決策: 速度に全振りした専用フラッシュ「XL-FLASH」
そこでキオクシアが用意したのがXL-FLASH™(エックスエル・フラッシュ)です。「ストレージクラスメモリ(SCM)」と呼ばれるジャンルで、DRAMとNANDの間の速度帯を埋めることを狙った、速度に全振りしたフラッシュメモリ。キオクシア公式の説明では、読み出し時間は3〜5マイクロ秒と、通常のTLC NAND(40マイクロ秒未満)より1ケタ速い位置にあります。
速さの秘密は2つ。①1つのセルに1ビットだけを記録するSLC方式——水が「あるか・ないか」だけ判定すればいいので、バシャッと入れてバシャッと読める。②16プレーンというユニークなアーキテクチャ——セルの区画を細かく分けて並列動作させ、配線(ワード線・ビット線)を短くすることで応答時間(レイテンシ)を大幅に縮めています(キオクシア XL-FLASH製品ページ)。
たとえるなら、普通のNANDは省スペース優先で人がぎっしりのカプセルホテル、XL-FLASHは廊下が広くて出入り自由な広々スイートルーム。同じ土地に住める人数(容量)は減りますが、人の出入り(データの出し入れ)は圧倒的に速い。キオクシアはiPhoneなどに入る大容量・低コスト品から、この速度特化のXL-FLASHまで、用途ごとにフラッシュメモリを作り分けているわけです。GP1にはその第2世代が採用されています。
2026年: GP1シリーズ(IOPS SSD)を発表——スペックとGPUダイレクトアクセス

ロードマップの第2段として、2026年8月4日に発表されたのがGP1シリーズです。スペックを整理します。
- 512バイト単位で最大1,000万ランダムリードIOPS——従来のSSDのデータ読み出しは4KB(4,096バイト)単位が一般的でした。GP1はその8分の1の512バイトという細かい粒度で、毎秒1,000万回のランダムリードをさばきます。細かい荷物を、毎秒1,000万個、バラバラの棚から取り出せる倉庫——元NANDの人間としては「あのランダムリード激遅のNANDでこれをやるのか」と唸りました
- 業界初、GPUによるダイレクトアクセスに向けた設計(キオクシア調べ)——従来、SSDのデータは「SSD→CPU→GPU」と経由して運ばれていました。GP1はGPUがCPUを介さずSSDへ直接読みにいく使い方に最適化。NVIDIAの要望どおり、HBMを拡張する高速なフラッシュ階層として設計されています
- 第2世代XL-FLASH™を採用——前節の速度全振りフラッシュ
- PCIe® 6.0・NVMe™ 2.2対応——最新規格でデータの通り道も倍速
- 耐久性は最大50 DWPD——1日にドライブ全容量の50倍を書き込んでも保証範囲という、エンタープライズSSDとしても桁外れの耐久性
- E3.S・E1.Sの2形状で空冷に対応、E3.SとE1.S(9.5mm)はコールドプレートによる液冷にも対応。サンプル出荷は2026年末までに限定顧客向けに開始予定
発表翌日の8月5日には、米国サンタクララで開催されたストレージ業界最大級の展示会「FMS: The Future of Memory and Storage 2026」で「Best of Show Award」(Specialized Storage部門)を受賞しました。AIインフラの新たなニーズに応える先進的なストレージとして評価された形です。そういえば在籍時代、会社の棚で似たような賞のトロフィーを見かけた気がします。業界では由緒あるアワードなんですよね。
つまりGP1は、NVIDIAの要望どおり「HBMの外側にぶら下げる準メモリ」を製品として形にした第1弾。メモリとストレージの境界線を溶かしにいく製品です。

驚くのはまだ早くて、キオクシアはGP1について「将来的に最大1億IOPSを目指す設計」と明言しています。今回の1,000万IOPSの、さらに10倍。報道によれば、1億IOPSは第3世代XL-FLASHと次の規格PCIe 7.0を採用する次世代品で狙うとされ、ロードマップの第3段(2027年)がそのまま生きています。フラッシュメモリ本体・コントローラー・インターフェースの全部を総動員する話になるはずで、次の発表が今から楽しみです。ちなみに、こうした超高速SSDの構想はキオクシアだけのものではなく、サムスンも速度特化NANDを手がけるなど、各社がこの領域を狙っています。ただ、PCIe 6.0対応で1,000万IOPSという具体的な製品をこのタイミングで出し、業界の賞まで獲ってみせたのはキオクシアが先頭を走っている証拠だと見ています。
CM10(CMX対応SSD)との違い——「容量で受ける」か「速度で応える」か
キオクシアは同じ2026年7〜8月に、NVIDIAの「CMX™(コンテキストメモリストレージ)」アーキテクチャーに対応したCM10シリーズも発表しています。どちらも「AI向けの高速SSD」なので混同しやすいのですが、役割が違います。
- CM10シリーズ——第10世代BiCS FLASH(TLC)採用の大容量SSD(最大61.44TB)。AIの会話の記憶(KVキャッシュ)がGPUメモリから溢れたぶんを受け止める「倉庫」役。NVIDIA CMXアーキテクチャーへの対応を明記
- GP1シリーズ——XL-FLASH採用の速度特化SSD。GPUが直接、細かいデータを超高速ランダムリードする「準メモリ」役(NVIDIA Storage-Next向け)

ざっくり言えば、CM10は「容量で受け止める」、GP1は「速度で応える」。AIサーバーのメモリ階層の異なるレイヤーを、それぞれ狙った製品です。技術的な難易度で言うと、ランダムリードというNANDの最大の弱点に真っ向勝負しているGP1のほうが、個人的にはより挑戦的な製品だと思っています。CMXやKVキャッシュの仕組みはCM10の解説記事で詳しく書いたので、あわせてどうぞ。
投資家目線——SK hynixがHBMで得た先行者利益との相似(個人的見解)
最後に投資家目線の話を。ここからは僕の個人的見解です。
僕がこの発表ラッシュを見て思い出すのは、SK hynixとHBMの歴史です。SK hynixは2013年に世界初のHBMを開発しました。当時は「高いだけのニッチなメモリ」扱いでしたが、AIブームでGPUに不可欠な存在となり、SK hynixはHBM市場の首位として先行者利益をがっちり握り、株価も大きく上昇しました。DRAMで起きた「AI特需による下剋上」が、今度はNANDフラッシュで起きるかもしれない——NVIDIAの要望に真っ先に応えたGP1とCM10は、その入り口に見えるんです。実際、そのSK hynix自身もサンディスクと組んで、NANDをHBMのように積層するHBF(High Bandwidth Flash)の標準化を主導し始めており、「NANDのAI昇格」は業界全体の潮流になりつつあります。
冷静に見るべき点も整理しておきます。
- 売上寄与はまだ先——GP1のサンプル出荷は2026年末までに開始予定なので、本格的な売上への寄与は早くて2027年以降と推測します。今のキオクシアの好決算(2026年5月の決算解説参照)は、AI向け新製品なしで出している数字です。
- 採用規模は未確定——GPUダイレクトアクセスという使い方自体がこれから立ち上がる市場で、どれだけの数量が出るかは誰にも分かりません。NVIDIAの要望水準(1億IOPS)に届くのは2027年の次世代品です。
- 競合の追随——サムスン・SK hynix・マイクロンも同じ市場を狙ってきます。技術で先行しても、量産と価格の勝負は別です。
それでも、NANDしか持たないキオクシアが、NANDの弱点を克服してAIサーバーの中枢に食い込もうとしている構図は、元中の人として素直に応援したくなりますし、投資家としてもめちゃめちゃ面白いテーマだと思っています。
まとめ
フラッシュメモリの仕組み(バケツと水のイメージ)はECC特許訴訟の解説記事でも深掘りしているほか、メモリ市況全体はマイクロン決算の解説記事もどうぞ。僕の研究開発者としての経歴は経歴ページをご覧ください。


