キオクシアの光SSDとは?なぜ必要なのか・PCIeをそのまま光に変える仕組みと効果を元キオクシア研究開発者がわかりやすく解説

もふもふ不動産のもふです。僕は元キオクシア(旧東芝メモリ)の半導体研究開発者です。ソニー・キオクシアで16年、先端半導体の研究開発に携わり、キオクシアではNOR型フラッシュや抵抗変化型メモリ(ReRAM)の研究開発を経て、世界初の48層3次元フラッシュメモリ「BiCS FLASH™」の量産立ち上げに参画しました(2019年まで在籍)。発明者として特許出願も行っています。詳しくは研究開発者としての経歴ページをご覧ください。

キオクシアのAI向け新製品ラッシュ(CM10GP1)を解説してきましたが、今回はその先にある「未来枠」の話です。キオクシアが京セラ・アイオーコアと開発を進めている「広帯域光SSD」——SSDとサーバーを電気配線ではなく光ファイバーでつなぐ技術。しかもすごいのが、PCIeという標準規格の信号を、プロトコル変換なしでそのまま光に載せてしまうところなんです。ただ、この技術は「データセンターが何に困っていて、なぜ今まで解決できなかったのか」を知らないと、すごさがピンと来ません。そこでこの記事では、キオクシアの一次情報——2026年2月にストレージ業界団体SNIAのセミナーで公開された技術資料を含む——をもとに、①問題 → ②技術的な壁 → ③光SSDの仕組み → ④何が良くなるのか → ⑤どこまで進んでいるか、の順に図解でわかりやすく解説します。

よくある質問
キオクシアの光SSD(広帯域光SSD)とは何ですか?

サーバーとの接続を電気配線ではなく光ファイバーにしたSSDです。キオクシア(SSD本体)・アイオーコア(光トランシーバーIOCore)・京セラ(光電気集積モジュールOPTINITY)の3社が開発し、2025年4月8日にPCIe 5.0(32GT/s×4レーン)での動作確認を発表しました。NEDOの次世代グリーンデータセンター技術開発事業の一環です。

なぜSSDを光でつなぐ必要があるのですか?

電気配線は信号を速くするほど減衰が激しくなり、届く距離が縮むためです。PCIe 7.0(128GT/s)の世代になると銅線での引き回しは極めて難しくなり、キオクシアはこの世代から光接続方式の積極的な導入が始まる可能性があると予測しています。また、発熱の大きいCPU/GPUと発熱の少ないSSDを分離して冷却を最適化できる利点もあります。

光SSDの何がすごいのですか?

PCIeの信号をプロトコル変換なしでそのまま光に載せる点です。SSDとサーバーの間の光電変換ブリッジボードが電気と光を変換するだけなので、サーバーからは普通のPCIe接続のSSDに見え、OS・ドライバ・アプリは一切変更不要。性能・機能・操作性はそのままに、cm単位だった接続距離を40m以上に延ばせます。

光接続にすると性能は落ちませんか?

キオクシアが2026年2月のSNIAセミナーで公開した実測では、光ファイバー経由と電気直結のSSDを比べて、シーケンシャルリード14.21GB/s対14.50GB/s、ランダムリード1420KIOPS対1422KIOPSと、性能差はほぼ誤差の範囲でした。光スイッチを介した8台接続でも、各SSDがシーケンシャルリード14.1GB/sを維持しています。また消費電力は、ネットワーク変換を伴うNVMe over Fabrics構成の帯域1Gbpsあたり0.725Wに対し、PCIeをそのまま光化した構成では0.219Wと約3分の1に抑えられると試算されています。

光SSDでデータセンターはどう変わりますか?

CPU/GPUは液冷完備の専用ルームに、SSD群は最小限の冷却で済む別室に分離するといった、熱に合わせた自由な設計が可能になります。部屋ごとに最適な冷却を選べるため冷却電力を削減でき、プロジェクト全体では2030年までに開始時点のデータセンター比で40%以上の省エネを目標にしています。

ディスアグリゲーテッドシステムとは何ですか?

CPU・GPU・メモリ・SSDを1つのサーバー筐体に詰め込む従来方式をやめ、リソースごとの「プール」にまとめて、必要な分だけ組み合わせて仮想サーバーを構成する次世代のデータセンター構成です。リソースの利用効率と電力効率が向上する一方、プール間を数m〜数十m以上の距離で広帯域接続する必要があり、短距離しか届かない電気配線では実現が困難です。キオクシアはその接続手段として光PCIeを開発しており、光スイッチ(Optical Circuit Switch)経由で光SSD8台とホストのPCIe 5.0接続を実証しています。

光SSDはいつ実用化されますか?

現在は試作機と実証試験(PoC)の段階で、製品化・量産の時期は公表されていません。NEDOプロジェクトは2026年4月に研究フェーズから社会実装フェーズへ移行しており、3社は社会実装に向けたPoCへの適用を目指すとしています。キオクシアは今後の課題として、PCIe 6.0対応の新プロトタイプ開発と、製品化に向けた小型化・低コスト化・歩留まり向上を挙げています。

【問題】AIデータセンターは何に困っているのか——電力・冷却・SSDの「置き場所」

まず、光SSDがどんな「困りごと」を解決しようとしているのかから始めます。ここを押さえておくと、後の仕組みの話がすっと頭に入ります。困りごとは3つです。

困りごと①: データセンターの最大の制約が「電力」になった

AIデータセンターの最大の制約は、いまや土地でも機材でもなく電力です。CM10の記事で書いたとおり、AIサーバーはSSDまで液冷にするほど発熱が深刻で、計算そのものだけでなく「冷やすため」の電力が膨らんでいます。日本でもNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)がグリーンイノベーション基金事業「次世代デジタルインフラの構築/次世代グリーンデータセンター技術開発」を立ち上げ、2030年までに、プロジェクト開始時点のデータセンターと比べて消費電力を40%以上削減するという目標を掲げています。国を挙げて取り組むほどの問題、ということです。

困りごと②: SSDはCPUのすぐ隣にしか置けず、「冷やしすぎ」になる

今のデータセンターでは、SSDとサーバーはPCIeという規格の電気配線(銅線)でつながっています。この電気配線は実用的には数十cm単位しか飛ばせないので(理由は次の章で説明します)、SSDはサーバー筐体の中、CPUのすぐ近くに詰め込むしかありません。その結果、灼熱のCPU/GPUと、そこまで熱くないSSDが同じ箱に同居することになります。部屋全体を一番熱い部品に合わせて冷やすので、SSDは「冷やしすぎ」の状態。冷却電力がムダに膨らみます。さらに高速の電気配線は太くて硬く、本数も膨大で、配線だらけでエアフローも悪くなります。故障したSSDを交換するにも、灼熱のサーバールームに入らなければなりません。

困りごと③: 「幕の内弁当」方式のサーバーはリソースが余る・足りない

もう1つ、構造的なムダがあります。今のサーバーは、CPU・GPU・メモリ・SSDを1つの箱に詰めた「幕の内弁当」です。手軽な反面、ご飯だけ足りない(=SSDだけ使い切った)ときも弁当ごと買い足すしかなく、リソースが余ったり足りなかったりのムダが、データセンター全体では膨大になります。

一般的なサーバーとディスアグリゲーテッドシステムの比較スライド。従来は各サーバーにCPU・GPU・SSD・DRAMを個別に搭載し接続は数十cmの短距離だが、ディスアグリゲーテッドシステムではリソースごとにプール化しPCIeファブリックスイッチで接続、数m〜数十m以上の比較的長距離で広帯域の通信が必要になる
従来のサーバー(左)とディスアグリゲーテッドシステム(右)。リソースをプール化すると利用効率が上がる代わりに、数m〜数十m以上の広帯域接続が必要になる(出典: キオクシア SNIAセミナー技術資料 2026年2月(PDF)より引用)

この弁当箱を解体して「ご飯はご飯釜、おかずはおかず鍋」とリソースごとのプール(置き場)にまとめ、必要な分だけ組み合わせて仮想のサーバーを仕立てる——これが上のスライド右側の「ディスアグリゲーテッドシステム」(分解された=disaggregatedシステム)という構想です。リソースを使い切れるので、電力効率も運用効率も上がる。ただし実現には、プール間を数m〜数十m以上の距離で、しかも広帯域につなぐ必要があります。

つまり困りごと②も③も、突き詰めると「SSDをCPUから離れた場所に置けない」という1点に行き着きます。では、なぜ離せないのか。それが次の「技術的な壁」の話です。

【技術的困難】なぜSSDを遠くに置けなかったのか——PCIeの電気配線は速くするほど届かない

壁①: 電気信号は速くするほど減衰して、届く距離が縮む

PCIeは世代ごとに速度が2倍になる規格で、4.0の16GT/sから、5.0で32GT/s、6.0で64GT/s、7.0では128GT/sへと進みます(CM10GP1が対応したPCIe 6.0が、今まさに立ち上がりつつある世代です)。ところがここに物理の壁があります。電気信号は速くするほど減衰が激しくなり、飛ばせる距離がどんどん縮むんです。PCIe 7.0の128GT/sともなると、銅線で引き回せる距離は本当にわずかで、業界でも「この先は光にせざるを得ない」という議論が本格化しています。

PCIe各世代における光配線と電気配線の通信距離変化イメージのスライド。帯域が8GT/s(PCIe 3.0)から256GT/s(PCIe 8.0)へ上がるにつれ、プリント基板上の銅配線・アクティブ電気ケーブル・光配線のいずれも適用可能距離が短くなるが、ラック間をカバーできるのは光配線のみと示されている
帯域が上がるほど通信距離は縮む。基板上の銅配線はPCIe 6.0あたりで限界、アクティブ電気ケーブルもラック内が精一杯となり、ラックをまたげるのは光だけになっていく(出典: キオクシア SNIAセミナー技術資料 2026年2月(PDF)より引用)

このスライドが壁の正体です。帯域が上がるにつれ、基板上の銅配線はPCIe 6.0あたりで限界、アクティブ電気ケーブル(信号を増幅する回路入りの電気ケーブル)もラック内が精一杯。ラックをまたげるのは光配線だけになっていきます。「速くする」と「遠くに届かせる」が電気では両立しない——これが、SSDをCPUの隣から動かせなかった根本の理由です。しかも高速の電気配線は、下の写真のとおり太くて硬く、物理的にも扱いづらい。

電気接続方式と光接続方式のコネクター・ケーブル比較写真。電気接続の太くて硬いコネクターと配線に対し、光接続は細く柔らかいファイバーケーブルで済む
コネクターとケーブルの実物比較。太くて硬い電気配線(左)に対し、光ファイバー(右)は細く柔らかく、配線の取り回しとエアフローが劇的に改善する(出典: キオクシア公式サイトの技術解説より引用)

壁②: 「ネットワーク経由で遠くのSSDを使う」既存の手段は、変換で遅くて電力を食う

「光で通信するストレージなんて、前からあるのでは?」と思う方もいるはずです。たしかに、ネットワーク経由のストレージ(SANやNASなど)は昔から光ファイバーを使っています。「離れた場所のSSDを使う」だけなら、NVMe over Fabrics(NVMe-oF)という、ネットワーク経由でSSDを共有する仕組みも今すでにあります。でもこれらは、PCIeの信号をいったんEthernetなどのネットワークのプロトコルに変換して運ぶ方式。変換のたびに遅延が積み重なってSSD本来の速度は出ませんし、両側に高性能なRDMA対応NIC(ネットワークカード)と、それを捌く強力なCPUが必要で、このネットワーク処理がベラボウに電力を食うんです(どれくらい食うかは【効果】の章で数字を示します)。省エネのためにSSDを遠ざけたのに、その手段で電力を食っていては本末転倒。「速度を落とさず、電力も食わず、遠くに置く」を同時に満たす方法がなかった——それが今までの状況でした。

【解決策】キオクシアの広帯域光SSDの仕組み——PCIeをプロトコル変換なしでそのまま光化

キオクシアの広帯域光SSD試作機。エンタープライズSSDに光電変換ブリッジボードが接続された基板の写真
広帯域光SSDの試作機。左がエンタープライズSSD本体、右側の基板が光電変換ブリッジボード(出典: キオクシア プレスリリース 2025年4月8日より引用)

ここで登場するのがキオクシアの広帯域光SSDです。ひとことで言うと「サーバーとの接続を光ファイバーにしたSSD」。キオクシアが、光トランシーバーのアイオーコア、光電気集積モジュールの京セラと3社で開発を進めているもので、【問題】の章で触れたNEDOの次世代グリーンデータセンター事業の中で「ストレージの光化」を担っているのがキオクシア、という位置づけです。つまりこれは一企業の思いつきではなく、国を挙げた次世代データセンター計画の一部なんです。僕がキオクシアの新製品発表を解説した動画でも「光SSDはいつか出てくると期待している」と触れたのですが、調べてみると想像以上に進んでいました。

光なら「速さはそのまま、距離の制約だけを外せる」

光ファイバーは、壁①の問題を一気に解決します。光は長距離を走っても信号がほぼ劣化せず、ケーブルは細くて柔らかく、電磁ノイズの影響も受けません。「速さはそのまま、距離の制約だけを外す」——これが光化の本質です。

電気接続方式と光接続方式の比較図。電気はcm単位の距離しか届かないが、光ファイバーなら約100mまで性能・機能・操作性そのままで接続できる
電気接続はcm単位、光接続なら〜100m。性能・機能・操作性は同じまま距離だけが伸びる(出典: キオクシア公式サイトの技術解説より引用)

決定打は「プロトコル変換なし」——サーバーからは普通のPCIe SSDに見える

そして壁②への答えが、キオクシアの光SSDの最大の特徴です。PCIeの信号を、プロトコル変換なしで、そのまま光に載せているんです。仕組みとしては、SSDとサーバーの間に「光電変換ブリッジボード」を挟み、電気のPCIe信号を光に変えてファイバーで飛ばし、向こう側でまた電気に戻す。サーバーから見れば、普通のPCIe接続のSSDにしか見えません

広帯域光SSD試作機の構成図。キオクシアのエンタープライズSSDにU.2コネクター経由で光電変換ブリッジボードがつながり、光電変換モジュールから光コネクターで光ファイバーに出る
試作機の構成。SSDはそのままに、光電変換ブリッジボードがPCIe信号を光に変換する(出典: キオクシア公式サイトの技術解説より引用)

これの何がすごいかというと、既存の資産を全部そのまま使えることなんです。OSもドライバもアプリも、NVMeというSSDの標準の仕組みも、一切変更なし。「性能・機能・操作性は同じ」とキオクシアが説明しているとおり、ソフトウェアからは光か電気かの区別すらつかない。特別なソフトもハードも不要で、データセンターの設計だけが自由になる。標準規格の上にきれいに乗っかる技術こそ普及するというのは半導体の歴史の鉄則で、これはその王道を行く設計です。

実証では40m離して接続——100m級も視野に

キオクシアは実証として、40mの光ファイバーで接続した光SSDが、性能への影響をほぼ受けずに動作することを確認しています。数十cmが限界だった世界から、一気に40m。キオクシアのエンジニアは公式の技術記事で、光なら数十メートルから数百メートルまで延伸可能と説明しており、100m級の接続も視野に入ります。

40m実証デモの構成図。サーバー(ホスト)から光電変換ブリッジボードでPCIe信号を光に変換し、40mの光ファイバーケーブルを経由して、SSD側のブリッジボードで電気に戻してキオクシアのエンタープライズSSDに接続している
40m実証デモの構成。サーバーとSSDの間を光電変換ブリッジボードで挟み、40mの光ファイバーを通しても電気直結と同等の性能で動作した(出典: キオクシア公式サイトの技術解説より引用)

【効果】光SSDで何がいいのか——性能そのまま・消費電力は約3分の1・データセンターの間取りが変わる

仕組みがわかったところで、「で、結局何が良くなるの?」を実測データと図で見ていきます。効果は4つです。

効果①: 性能は電気接続と同等——実測で誤差の範囲

「光に変換したら遅くなるんじゃないの?」という疑問には、キオクシアが2026年2月のSNIA(ストレージ業界の標準化団体)のセミナーで公開した実測データが答えを出しています。同じ構成で、光ファイバー経由のSSDと電気で直結したSSDを測り比べた結果がこちらです。

光SSDとホストの接続試験のスライド。光ファイバー(MMF)経由の広帯域光SSDと電気直結のSSDの構成写真と、シーケンシャルリード・ライト、ランダムリード・ライトの実測値比較表が示されている
光SSDとホストの接続試験。光接続でも電気直結と同等の性能を確認(出典: キオクシア SNIAセミナー技術資料 2026年2月(PDF)より引用)
測定項目光接続電気接続(直結)
シーケンシャルリード14.21 GB/s14.50 GB/s
シーケンシャルライト3.59 GB/s3.58 GB/s
ランダムリード1,420 KIOPS1,422 KIOPS
ランダムライト845 KIOPS843 KIOPS

ご覧のとおり、4項目ともほぼ誤差の範囲です(いちばん差が出たシーケンシャルリードでも2%)。「性能・機能・操作性は同じ」という説明が、実測の数字で裏付けられたわけです。光化のコストである光電変換を2回(行き・帰り)挟んでもこの結果、というのが技術的にすごいところです。

効果②: 消費電力はNVMe-oF構成の約3分の1——「変換しない」ことの威力

【技術的困難】の章の壁②で触れた「既存手段のNVMe-oFは電力を食う」問題が、光PCIeでどれだけ変わるか。キオクシアがSSD4台をリモート接続する構成で試算した結果がこちらです。

NVMe over Fabrics構成とPCIe光通信構成の消費電力比較スライド。NVMe-oF構成は光トランシーバ10W、RDMA対応NIC 30W、16コアCPU 150W、SSD4台100Wで帯域1Gbpsあたり0.725W。PCIe光通信構成は光電変換モジュール12WとSSD4台100Wのみで1Gbpsあたり0.219W
リモートストレージの消費電力試算。PCIeをそのまま光化すればRDMA NICもCPUも不要になり、1Gbpsあたりの電力は約3分の1に(出典: キオクシア SNIAセミナー技術資料 2026年2月(PDF)より引用)

NVMe-oFが帯域1Gbpsあたり0.725Wなのに対し、PCIeをそのまま光化した構成は0.219W——約3分の1です。光化した構成で必要なのは光電変換モジュール(1台3W×4台=12W)だけ。電力食いのRDMA NIC(30W〜)も16コア級CPU(150W〜)も丸ごと不要になります。プロトコル変換のためのハードもソフトも持たない、「変換しない」設計がそのまま省エネになる、というシンプルで強い理屈です。

効果③: 熱源(CPU/GPU)とSSDを別室に分離——冷却電力を削る

では、「SSDが遠くに置けて、しかも省電力」だと何が嬉しいのか。ここがこの技術の本丸です。答えは、データセンターの間取りを、根本から設計し直せることです。まずは【問題】の章の困りごと②、「熱」の観点から。

広帯域光SSDによるデータセンター構成の変化。従来は超高温のマシンルームに全機器が同居していたが、CPU/GPU専用施設(液冷などで冷却)とSSD格納施設(最小限の冷却)に分離できる
光化で「CPU/GPU専用の部屋」と「SSD格納の部屋」を分離し、それぞれ適温で冷やせるようになる(出典: キオクシア公式サイトの技術解説より引用)

灼熱のCPU/GPUは液冷完備の専用ルームへ。発熱の少ないSSD群は、最小限の冷却で済む別室にまとめて格納。部屋ごとに「ちょうどいい冷やし方」を選べるので、冷却の電力を大幅に削れるわけです。AIデータセンターの電力問題はSSDまで液冷になるほど深刻ですから、「そもそも熱源とストレージを分離する」というアプローチは理にかなっています。故障したSSDの交換だって、灼熱のサーバールームに入らず、ストレージ室でまとめて作業できるようになる。運用面のメリットも大きいんです。

効果④: 「幕の内弁当」を解体するディスアグリゲーションが現実になる

【問題】の章の困りごと③、ディスアグリゲーテッドシステムにも道が開けます。プール間を数m〜数十m以上の距離で、しかも広帯域につなぐ必要があり、短距離しか飛ばない電気PCIeには荷が重い——まさに光PCIeの出番なんです。リソースを使い切れるので、電力効率も運用効率も上がる。次の章で見るとおり、キオクシアはすでにその入り口を実機で検証しています。

【導入状況】光SSDはどこまで来ているか——実証・3社連合・PCIe 6.0/7.0への道筋

実証の現在地: PCIe 5.0動作・CEATEC展示・光スイッチ経由で8台接続

2025年4月8日、キオクシアはPCIe® 5.0(32GT/s×4レーン)での動作確認に成功したと発表しました。2024年8月発表のPCIe 4.0対応の前世代試作機から、わずか8ヶ月で帯域を2倍にしてきた計算です。さらにディスアグリゲーションの入り口も実機で検証済みです。PCIeスイッチを介した光SSD4台とホストの接続を確認し、このシステムはCEATEC 2025(2025年10月・幕張メッセ)で動態展示されました。そして、光スイッチ(Optical Circuit Switch・64×64ポート)を介した光SSD8台とホストのPCIe 5.0接続まで実証済み。8台すべてがシーケンシャルリード14.1GB/sをきっちり出しています。

光スイッチ(Optical Circuit Switch)を経由した接続検証のスライド。光SSD8台を64×64ポートの光スイッチに光ファイバーで接続し、ホストとのPCIe 5.0接続を確認。8台それぞれのシーケンシャルリード14.1GB/s、ランダムリード約1370〜1383KIOPSの実測表が示されている
光スイッチ経由で光SSD8台とホストのPCIe 5.0接続を検証。8台すべてがほぼ同一の性能を発揮している(出典: キオクシア SNIAセミナー技術資料 2026年2月(PDF)より引用)

光スイッチは、光信号を光のまま行き先だけ切り替える装置です。つまり「どのサーバーに、どのSSDを何台つなぐか」を、配線をつなぎ直すことなく動的に組み替えられる。ストレージのプール化に必要な部品が、研究室のポンチ絵ではなく実機で動き始めているわけです。

キオクシア・アイオーコア・京セラの3社連合

試作機は、日本企業3社の技術の合わせ技です。

  • キオクシア——広帯域光SSD本体(エンタープライズSSDがベース)と全体設計
  • アイオーコア——光トランシーバー「IOCore®」。電気信号と光信号を変換する心臓部
  • 京セラ——光電気集積モジュール「OPTINITY®」。光部品を基板に高密度実装する技術

光トランシーバーや光電気集積は、日本の部品メーカーが強みを持つ領域です。フラッシュメモリのキオクシアと光部品の京セラ・アイオーコアという日本連合で、次世代データセンターの標準の一角を取りにいく——この構図自体もなかなか熱いものがあります。

製品化への道筋: PoC → PCIe 6.0プロトタイプ → PCIe 7.0世代で本格導入か

3社は今後、社会実装に向けた実証試験(PoC)への適用を目指すとしています。NEDOプロジェクトとしても2026年4月に研究フェーズから社会実装フェーズへ移っており、「研究室のデモ」から「データセンターで使う技術」への橋を渡り始めたところです。SNIAセミナー資料では、今後の課題としてPCIe 6.0規格対応の新プロトタイプ開発も明言されています。CM10GP1が対応したPCIe 6.0の世代に、光SSDも追いついてくる計画です。製品化・量産の時期はまだ公表されていませんが、キオクシアはPCIe 7.0あたりから光接続方式の積極的な導入が始まる可能性があるという見立てを示しています。

PCIeの世代ごとの速度推移グラフ。PCIe 4.0の16GT/sから7.0の128GT/s、その先の256GT/sへ。PCIe 7.0あたりから光接続方式の積極的な導入が始まる可能性があると示されている
PCIeの速度は世代ごとに倍増。キオクシアはPCIe 7.0あたりから光接続の積極導入が始まると予測している(出典: キオクシア公式サイトの技術解説より引用)

【技術的困難】の章で見たとおり、電気の物理限界は交渉の余地がありません。つまり広帯域光SSDは「変わり種の実験」ではなく、PCIeの進化の先で必ず来る「光化の時代」を先回りする研究開発なんです。標準規格(PCIe)にそのまま乗る設計にしてあるのも、その時代が来たときに主導権を握るための布石だと僕は見ています。

投資家目線——省エネ40%目標と「未来枠」の価値(個人的見解)

最後に投資家目線の話を。ここからは僕の個人的見解です。

まず正直なところから言うと、広帯域光SSDは今すぐ売上になる話ではありません。まだ試作機とPoC(実証試験)の段階で、製品化・量産の時期も公表されていません。CM10GP1が「これから1〜2年の主力」だとすれば、光SSDはその次の世代を取りにいく「未来枠」です。

ただ、この未来枠には2つの意味で価値があると思っています。1つは、AIデータセンターの最大の制約が「電力」になったこと。国の目標である省エネ40%が実現すれば、そのインパクトは莫大で、光化はその主要な打ち手の1つです。今回のSNIA資料は、その効果を「NVMe-oF比で帯域あたり電力約3分の1」という具体的な数字で示してきました。もう1つは、PCIeの光化がほぼ不可避の流れであること。電気の物理限界は交渉の余地がないので、時期の早い遅いはあれど、いずれ業界全体が光に向かいます。そのときに「PCIe標準のまま光化する」ノウハウと実績を持っているかどうかは、大きな差になるはずです。

リスクも書いておくと、光部品はまだ高価で、コストが下がらなければ採用は限定的にとどまります。キオクシア自身も、製品化には小型化・低コスト化・歩留まり向上が必要だと資料で率直に認めています。また、光化の主戦場はまずGPU間の接続(こちらはNVIDIAなどが猛烈に開発中)で、ストレージの光化がどの順番で来るかは不確実です。それでも、「フラッシュメモリの会社」が「データセンターの間取りを変える技術」まで手を伸ばしているのは、キオクシアの技術の懐の深さを示す動きとして、素直に評価したいところです。

まとめ

僕の研究開発者としての経歴は経歴ページをご覧ください。

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